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編集長インタビュー 「雇われない生き方」


「雇われない生き方」、アントレからの提案である。
このライフスタイルをめざす皆さんへ、日本を代表する
各界の著名人からのメッセージをお届けしていく。
第1回目は田坂広志氏にお話をうかがった。


心と心で結びつくことが
「雇われない生き方」


――『アントレ』では読者に「雇われない生き方をしよう」と提案してきました。それについて、田坂さんのご意見をお聞かせください。


田坂 「雇われない生き方」とは、良い言葉ですね。しかし、その言葉は決して「雇う側に立つ」ことを意味しているのではありません。なぜなら、これからの時代のビジネスは、雇う・雇われるという関係を超えた方向に向かうからです。上下の関係ではなく、人間同士のフラットな結びつきからビジネスが生まれる時代になっていきます。すでに現在でも、雇う・雇われるという意識が強い組織では、仕事のクオリティが落ちてしまう現象が見られます。知識労働が主流となる時代には、人間の意識や心の状態が仕事にそのまま反映するからです。これから、商品の本質は「製品」や「サービス」ではなく、それを生み出す人間の「知恵」や「心」になっていきます。だから、マニュアル的な仕事のやり方では通用しません。むしろ「仕事とは自分の作品だ」と考えるような姿勢こそが、これからの知識社会では求められるのです。

従って、職場のメンバーがどのような心で結びついているかが大切です。ただ給料を稼ぐためではなく、素晴らしい製品やサービスを社会に提供したいとの思いを共有した人間同士が集まり、フラットに結びついていく関係性こそが望ましいでしょう。現在の大企業のように、職場というものが上意下達の場になったり、労働管理の場になっていてはいけません。

そして、これからは「仕事の報酬」の意味が変わっていきます。労働の対価とは給料や年俸だけではありません。目に見えない3つの報酬こそが大切なのです。第1は「知識や技術」。働くことによってスキルが身につき、ノウハウを学ぶことができます。第2は「仕事」。一生懸命に仕事に取り組むことで、さらにやりがいのある仕事に出合えます。昔、私の職場の仲間が「仕事が面白すぎるので、働きすぎに気をつけよう」と言っているのを耳にして、とてもうれしかったことがあります。そして第3が「成長」。仕事の苦労と喜びを通じて、人間として成長していくことができるのです。単に金銭的報酬のためでなく、こうした目に見えない報酬を求めて働くことが「雇われないで生きる」ことだと思います。


――今後日本企業や日本の社会ほどのような方向に動いていくでしょうか。


田坂 これからの時代の労働は、全体性の回復に向かうでしょう。本来、私たちの「生」は全体性を持っていました。生きるためには、食べ物や着る物などすべてを自ら作らなければならなかった。しかし、近代社会においては専門化や分業化が進み、効率的で機能的になった半面、我々の「生」の全体性が失われてしまった。仕事においても、自分を「部品」にしてしまった。しかし、自分の「専門」を磨いても「部品」にはなるべきではない。仕事というものを一つの側面からだけ見るのではなく、その全体を見つめなければいけません。いずれスペシャリストの時代は終わり、スーパーゼネラリストの時代がくるでしょう。これまでのゼネラリストとは「何でもこなせるが、何もまともにできない人」でした。しかし、これからは仕事や物事の全体像が明確に見える人がゼネラリストと呼ばれるのです。特にネットビジネスやベンチャー企業は、専門主義や分業主義を超えて、仕事の全体性を回復していく動きとなるでしょう。会社を起こし、マネジメントするとき、人間としての総合的な力が求められます。バランスよく、人・物・金に目配りしながら、企業という一つの生命体に処していかなければならないからです。

そして、時間の流れの中で全体性を見つめることも大切です。例えば、私たちの企業経営という営みもまた、この宇宙の壮大な進化の歴史の中にあります。160億年前のビッグバンによって生まれたこの宇宙は、物質、生命、精神、社会、文化へと向かう複雑化の道をたどり続け、その最先端において、現在の知識資本主義の段階へと到達しているのです。従って、私たちの日々の営みもまた、その壮大な流れの中にあるという視点を忘れてはなりません。


他者への依存心から脱却し
精神の自立を求めて生きる


――これからの時代、ビジネスパーソンに求められるものは何でしょうか。


田坂  経済の自立だけではなく、精神の自立をめざすことです。我々の精神は、ともすれば、強い他者に安易に頼ってしまいます。エーリッヒ・フロムが『自由からの逃走』の中で、なぜファシズムが勃興したのかを考察しています。実は、ナチスも選挙を経て選ばれたのです。ファシズムを選択したのはドイツ人自身だったのです。当時の人々には、自由に伴う責任から逃れたいという深層心理がありました。強い他者に対する人々の依存心が、あの歴史的悲惨を生み出したのです。そして、それは、現在の企業社会にある私たちの弱さにも通じています。私たちは、何よりも、精神的に自立すべきでしょう。そして、自立を通じて、自らの人生の主人公となるべきなのです。

そして、「自己実現」だけにこだわるべきではないでしょう。なぜなら、人生での夢は実現しないことのほうが多いからです。では、夢を実現できなければ人生は失敗なのか?そうではありません。もっと深いものを見つめるべきです。女優のウーピー・ゴールドバーグが、あるテレビ番組で俳優の卵たちに「私の夢は実現するでしょうか?」と尋ねられ、答えた言葉が印象深いものでした。「あなたは今、自分がやりたいことに挑戦していますか。もしその答えがイエスなら、すでにあなたの夢は実現しているのです」。彼女は、そう答えました。素晴らしい答えです。

夢は実現することに価値があるのではない。それを実現しようと懸命に歩むことによって、私たちは、このかけがえのない人生の一瞬一瞬を、悔いなく生き切ることができるのです。


――フラットな関係性で働くため、生の全体性を大切にするため、精神の自立を求めるため、そしてこの一瞬を精いっぱいに生きるため、私たちは「雇われない生き方」をめざそう。田坂さんの言葉の数々には、そんな暖かいメッセージがちりばめられている。

( アントレ 4月号 )