新しいノブリス・オブリージュたちへ

混沌の時代の少し先を見るということ <連載第1回>

「高貴な人々の義務」を考える

「ノブリス・オブリージュ」という言葉があるのをご存知でしょうか?
直訳すれば「高貴な人々の義務」という意味の言葉であり、高貴な身分に生まれついた人間には、奉仕活動、慈善事業、軍務に献身する義務があるという思想を表した言葉です。実際、この思想が大切にされてきた英国では、第二次世界大戦において、貴族出身の下士官の死傷率が群を抜いて高かったと言われています。
では、貴族という階級が存在しない現代の日本において、こうした思想は意味を持たないのでしょうか? 価値を持たないのでしょうか?
そうではありません。現代の日本の企業社会において、この「ノブリス・オブリージュ」という思想は、大切な意味を持って復活してくるのではないでしょうか。しかしそれは、「高貴な人が覚悟する義務」という本来の意味ではなく、その逆の「義務を覚悟する人の高貴さ」という意味において、新しい思想的生命力を持って復活してくるのです。そしてこのとき、「義務」という言葉は、むしろ「使命」という言葉に近い響きを持つようになるでしょう。


ネットベンチャーは使命を自覚せよ


なぜならば、これからの時代の企業や企業人は、「株主に対する義務」や「顧客に対する責任」を自覚するだけでなく、「社会に対する使命」を深く自覚しなければ、消費者や生活者からの共感を得ることはできないからです。
例えば、いま、ネットバブルの崩壊によって、ネットベンチャーの目的喪失が生じています。しかし、そもそもネットベンチャーは、企業の立場に立って「販売代理」を行う卸売業や小売業などの古い中間業者(オールドミドルマン)に対して、顧客の立場に立って「購買支援」を行う新しい中間業者(ニューミドルマン)の役割を果たしてきました。そして、このようにして消費者を支援することによって、これまでの「企業中心市場」を「顧客中心市場」へと進化させていく使命を果たしてきました。そうであるならば、ネットベンチャーは、その使命を深く自覚することによってこそ、この逆風のなかでも誇りを持って進んでいけるのではないでしょうか。
そして、これからの時代には、こうした社会的使命を自覚した企業や企業人が持つ「精神の高貴さ」こそが、「ノブリス・オブリージュ」という言葉の新しい意味になっていくのではないでしょうか?
この連載では、いま、そうした使命感を抱きながら、ビジネスの現実と格闘している人々、すなわち新しい「ノブリス・オブリージュ」たちへ、この混沌の時代の先に光を見出すためのメッセージを送りたいと思います。

( BUSINESS STANDARD 8月創刊号 )